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第1章 外国為替取引の仕組み
外国為替証拠金取引の仕組み
違う通貨の間の値段の動きを取るには、現金・預金に始まり不動産や消費されるモノに至るまでどんなものでも値段のついているものであれば、それを使って価格差を取ることはできます。しかし投資する金額がいくら必要なのか、その投資金額に対して何%のリターンが可能なのかは何を手段として使うかによって変わってきますし、債券や株、不動産のように外国為替の値動き以外の要素が出てくるものもあります。外国為替の値段の動きだけをその要素とする方が、その他の要素を必要とするよりも当然シンプルにその値段の動きだけを取って行くことができます。
なかでも外国為替証拠金取引は、投資金額とリターンの関係から言えば、間違いなく資金効率のいい方法です。同じ投資金額で、同じ値幅動いても結果として取れる金額の絶対額が全く違うのですから、現金・預金で取る場合と外国為替証拠金取引で取る場合にはその仕組みは全く違うものになります。ですから同じ金額を投資しても、かたや5万円、かたや50万円というほど差が出ることになります。
しかし資金効率はいいものの、外貨預金に比べればかなりのハイリスクハイリターンな投資です。いうなればこれは気の荒い馬と同じで、上手く乗りこなす事ができれば、よく走るとてもいい駿馬になります。しかし適当に乗ろうとすると振り落とされて痛い目に遭います。痛い目に遭わないためには、まずこの仕組みを理解しすることが大切です。
外国為替証拠金取引の大きな特徴は「レバレッジ」にあります。「レバレッジ」とは、直訳すれば日本語で「てこの力」のことを指しますが、「他人の資本を利用すること」も意味します。他人の資本を利用するというのは、どういうことでしょうか。
文字通りに本来自分では持っていない金額部分を誰か他の人の資金を利用して行うということです。
そもそも外国為替というのは、どのように商いされているかから説明しましょう。
動きのある金融商品として身近に思い浮かぶものは、株式や国債などでしょう。売る人と買う人がいて値段が決まり取引が成立するということでは、外国為替も株・債券も同じです。しかし決定的に違うのは、株・債券は取引所が国によって設けられていて、その取引所一ヶ所に集めて集中的に売買を行うというのが決まりですし、会社にとっては株式を取引所に上場を果たすというのがひとつのステータスにもなっています。
しかし外国為替取引には、基本的にこのような取引所が存在しません。取引相手さえいれば、世界中いつどこで取引をしても構わないのです。土日だって構いません。しかし取引相手をいちいち探すというのでは、手間暇かかって仕方がないため、代わりに銀行や業者がその中継役を請け負っています。
1−1のたとえ話に戻りますが、モスク脇の「火を噴く魔法の水」を売っている商人がその代金として日本円をもらったとしても、その日本円を自分が使う通貨に換えなければ、パンすら買えないわけですが、そのためにご近所に声をかけて、いちいち自分で日本円を欲しい人を探すのは面倒ですし、そもそもすぐ近くに見つかるかどうかわかりません。誰か一括してそれを請け負っているところですぐに換えてもらった方が効率的です。
こうして中継役が自然に登場し、世界中に存在するのですが、中継役のなかでも取引規模が大きく信用力が高い銀行だけが参加する市場(=インターバンク市場)が価格形成力を持ちます。取引量が多いこともあり、通貨の交換レートはこのインターバンク市場で決まる値段を中心にして決まっていきます。
少し話は離れますが、外国為替の商い量というのはどのくらいあるか想像できますか?正確な統計すらありませんが、今日では一日平均1兆5千億ドルを超えていると言われています。日本円に直せば約150〜60兆円の取引がたった1日の間に行われていることになります。日本政府の年間予算の規模が80兆円、世界の貿易量は一日平均約2兆1千億円くらいと言われていますから、その規模はとても巨大です。ここまで巨大な市場になると、インサイダー取引や政府の介入の力よりもマーケットの持つ力の方が圧倒的に大きくなります。2003〜2004年に何十兆と日銀が覆面介入をしたものの、まったく円高を止めることが出来なかったことを思い出して下さい。このマーケットの力というのは、マーケットへの直接参加者だけでなく、為替に関わるすべての世界の動きからなる、あらゆる要素が複合された力です。この本では、この複合された要素をなるべく分解して解説するようにして行きますので、動きを読む目を養ってください。インターバンクに参加する人でなくとも、日々のニュースから充分動きを読んで行くとこができます。
このインターバンクで動く資金は、現金で1円まできちっと決済される銀行間のマーケットです。しかしもしマーケットが、このインターバンクだけで成り立っていたとしたら、どうなるでしょう。限られた参加者だけの狭いマーケットの中で、あるA銀行が顧客からの注文で大量に売らなければならないドルを持っていたとします。それを誰かに買ってもらおうとしても、狭いマーケットではすぐに他の銀行にも情報は流れてわざわざ安くなるとわかっているドルをすぐに買ってくれないかもしれません。そうなると、もしA銀行が資金化を急ぐ必要があったなら、安くても売るわけですから、その売りだけで実態経済とは離れてドルの値段を下げてしまいます。しかしここで今すぐにはドルを使うわけではないけれど、将来的にはドルは上がると思ってる投資家Bがいるとします。投資家Bは、短期的に下がっているだけのドルを買うことで将来的な利益を得られるかもしれません。しかし銀行のように投資家Bには大量の現金がないかもしれません。しかし投資家Bがそのアイデアだけでマーケットに参加することができれば、マーケットはそれだけ厚みを増し、価格も安定することができます。またA銀行の価格ヘッジ(=リスク回避)を助けることになります。
少し話を単純化しましたが、インターバンクで扱われるような「生の通貨」は、為替の世界の「現物」だと思って下さい。「現物」を株でいえば東京証券取引所に上場しているトヨタの株式です。これに対して外国為替証拠金取引は、為替の金融派生商品(=金融ディバティブ)です。
金融デリバティブというと、まずその代表格が債券や株式などの金融先物でしょう。そもそも「先物」と聞くと、商品先物に手を出して電話の向こうから怒鳴られる声におびえる人物が描かれた漫画のシーンを想像したり、「先物によって現物が引きずられて値を下げたが、これは実体経済とはかけ離れた動きだ」という声高に解説するニュースなど負のイメージで捉えられることも多いのではないでしょうか。
しかし先物というデリバティブ取引は本来の価格を安定させ、将来のリスクをヘッジする(=リスクを回避もしくは軽減する)という偉大な機能を持っています。そもそも先物というデリバティブの発想は日本の米相場に由来すると言われていますから、昔の日本にはなかなか画期的な発想があったと感心します。
近年の金融工学の発達や経済のグローバル化、IT化によって、さまざまな金融デリバティブが発達し、今や、現物をコインの表とするならば、金融デリバティブはコインの裏側の役割を担い、金融デリバティブはコインの表側にはなくてはならない存在です。金融が血液としてグローバル化した世界経済を支えることを考えれば、怪しいものなどという観点で捉えられるものではまったくありません。たとえば日本の国債市場はデリィバティブであるはずの国債先物が表です。あまり意識しないかもしれませんが、多かれ少なかれ我々はその恩恵を受けています。
ともかくまず外国為替証拠金取引は、こういった金融デリバティブ商品のひとつだということを認識して下さい。
では具体的な仕組みについて説明します。
銀行などが行う外国為替のマーケットでは通常の売買は、1単位として100万ドル(=約1億円相当)で商いされ、そのまま現金決済されます。しかし外国為替証拠金取引においては、現金で1億円相当の商いをするのではなく、保証金のみで、100万ドル相当の商いができるという形式を取ります。
これが先ほどの「レバレッジ」ということになります。1億円持っている人ならば、その1億円で現物の通貨を銀行で買ったとしたら1億円分しか手に入らないわけです。しかしこの「レバレッジ」取引を使えば、その同じ1億円を保証金として使って、そのレバレッジが10倍と仮定すれば、10億円分の通貨を持てます。同じ1円の動きでも、1億円分が1円動くのと、10億円分が1円動くのではもしも自分の持っている通貨の方向に動いて益が出る場合、手元に残る資金は1億円と10億円では900〜1000万円も変わって来ます。
<計算式>
ドルを買う際のレートを1ドル=105円とします。
1億円 × 1USD/105円 = 約95万ドル
10億円 × 1USD/105円 = 約952万ドル
手にしたドルの価値が上がり、106円になったとします。
95万ドル × 106円 = 1億70万円
952万ドル × 106円 = 1億912万円
(手取りの差額)912万円 − 70万円 =842万円
同じ1億円を使ってもそこで得られるかもしれない利益はレバレッジを使うことによって、ここまで変わってきます。もちろんこの逆もあります。この逆になる=マイナスになるかもしれないというのが一番大きなリスクになるわけですが、このマイナスを最小限に抑えるにはどうしたらいいかというのがこの本のテーマです。マイナスを最小限に抑えながら、プラスを残していけば間違いなくトータルではプラスが残ります。これが知恵を使ってお金を増やしていく極意です。
外国為替証拠金取引は、外国為替の金融デリバティブであり、その大きな特徴がレバレッジにあります。また業者(ブローカー)に出すお金はあくまでも保証金としての機能であり、そのお金でそのまま通貨を買うわけではありません。あなたの考えである通貨の動きを予想し、「その通貨の値段と値段の間を取る」ことが目的になります。このような取引形態を一般には「投機」と言います。
「投資」と「投機」は違います。日本ではバブル後遺症のせいか、「投機」というとどうも悪いイメージでとらえられがちです。証券会社や銀行に投資信託を勧められる時などのセールストークで「投機」を悪者にして、投資信託で真っ当な「投資」をしましょうというような事を言われることもあるでしょう。しかしお金をどのように増やすかという観点の中で、横並びが多い投資信託や高度成長時代が終わった日本の株を買って持つだけで、大きく増えるチャンスはあると思いますか?借金だらけの日本国を信用して、超低金利の国債を買ってあげるのに協力しますか?自分のお金ですから、自分で自分のお金を守るという意識さえしっかりあれば、自分の投資の中に投機を組み合わせることによって、お金を増やすチャンスが大きく広がります。大きな額でなくていいのです。知恵を身につけて上手に増やしていけるかどうかが、「金持ち父さん、貧乏父さん」を分ける分岐点になります。特にこれからのまだ人生がある程度長くあると思っている人ならば、その分リスクも取れるはずです。リスクのないところにリターンなどありません。またそもそも預金や国債は、リスクがないように思いますが、実際は大きなインフレリスクをそのまま背負っています。こうしたことはデフレ下においてはあまり気になりませんが、よく考える必要があります。
証拠金の話に戻りますが、外国為替証拠金取引においては、証拠金として差し出したお金を使って、そのまま通貨を買うわけではありません。ですから必ず売買はセットになっています。売った場合は、必ずどこかで買わなければなりませんし、買ったものは必ずどこかで売らなければなりません。そのセットになった売買1回分の値幅がそのまま損益となります。業者によってレバレッジの設定度合いが違うのですが、ここではレバレッジを10倍として、外国為替証拠金取引でよくある最小取引額1万ドルでしくみのイメージをつかんでみましょう。
この時の為替レートは、1ドル=105円とします。
保証としての証拠金として10万円を入れるとします。
1万ドルを105円で買います。
このようにドルを買って持っている分、セットになっている売り決済が来るまで、損失に応じて損失が出た分だけ証拠金が抑えられて行きます。逆に益になっている場合には余剰資金として当初の証拠金10万円が増えたことになり抑えられることもありません。損失に見合う証拠金が仮に全部抑えられたとしたら、そこで一般的には自動決済されるようにできています。ですから10万円以上の損失が出て追加のお金を払うということはないのが普通です。また上からもわかるように5円動くと単純計算で、10万円が15万円になるわけですから、小額であっても大きな利益をあげることができます。これがレバレッジを使った取引の醍醐味です。同じことを外貨預金で行ったとしたら、1000米ドルだけやっても5千円の益しか出ません。