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第6章 リスクのとり方と考え方

手元資金の観点

今回、この本のシミュレーションでは元手の資金として100万円を例として取り上げていますが、とにかく重要なことはこのお金をいかになくさないようにするかです。現物株を買ったり、宝くじを買ったりした場合には、その元手の資金以上に損をすることはありません。なくなって元々だと思えれば、それが最大のリスクということになります。しかし今、われわれが取り組もうとしているのは、レバレッジの利いた取引形態であり、下手をすれば元手の資金以上に損失を被るケースもありえるのです。証拠金取引は資金効率がいいことが最大の特徴なのですから、100万円という資金を効率よく運用できる反面、損失を放置しておくと大変なことになります。損に対して目をつぶっているわけにはいきません。

確かに各ブローカーの方でマージンコールや強制終了などによってこのリスクを最小限度に抑えてこんでいるため、何も知らずに元手がなくなるといったようなことはまず起こりらないでしょう。しかし損益の状況に応じて持つポジションの量を増減するとか、ストップの置きどころを加減するなどの能動的な対策をみずからほどこせば、業者から強制されてから行動を起こす前にいくらでも軽症で済ますことができます。

これは最後に述べることですが、「自分を知る」ということがいちばん大切であり、また難しいことでもあります。自分は手持ちの資金の何%くらいまでの損失は許容できるのか、また万が一にも証拠金が不足する事態が起こった際にはどのくらいまで追加の資金を投入することができるのか、という事もあらかじめ心構えとして持っておくのは当然です。しかしさらに重要なことは、自分の資金がポジションを持つために必要な証拠金にも不足するような事態は避けなくてはならないということです。動けなくなれば、儲けるチャンスもすべてなくなってしまいます。明日のためにチャンスを常に残すよう心がけなければなりません。

4章の例を使って考えてみましょう。ドル円の取り引き1枚は10万ドル、1枚あたりの必要証拠金は30万円です。元手の資金が100万円だから、始めは3枚まで持てることになりますよね。簡単にするため、取引手数料のようなコストはここでは勘案しません。

<3枚(30万ドル分)を売り建てていた場合>

1円分だけ自分の思った方向へいった場合には、元手資金に対して30%ものリターンを得ることができました。

(110.00−109.00)×30万ドル = 300,000円

しかし、もしもこれが思惑とは反対方向に1円動いた場合には、30%も損失が出ることになります。絶対に円高である(ドルが安くなる)と信じていても、必ずしも相場がその思った方向へすぐに動いてくれるとは限りません。

ここで、元手の軍資金100万円に対して行った上記の取引の是非を検討してみましょう。100万円の元手に対して30万円のプラス・マイナス。一回の取引で30%の利回りを捻出できるのですから、資金効率としては抜群だといわざるをえません。ただしここには大きな落とし穴があります。4章で見たように、ポジションを保有し続けるために残しておかねばならない維持証拠金はいくらだったでしょうか?

1枚あたり20万円でしたから、3枚で60万円が手つかずの状態で証拠金勘定に残っていなければなりません。ということは、マージンコールにならないために自分自身の判断で損失をコントロールできる領域は40万円までだということになります。取引で30万円のロスを計上してしまったら、あとは10万円の余地しか残されていません。もしそのまま保有を続けた場合、さらなるアゲインストには33銭しか耐えられないということになります。それまで、1円級の勝負をしてきたのに、急にマージンコールを恐れて小さい値幅を気にかけなければならないという羽目に陥ります。

では、何が間違っていたのでしょうか。

ひとつには持つべきポジションのサイズがあげられます。100万円で3枚まで持つことが可能であるからといって、いきなり3枚で勝負を始めると、余裕のない取引になってしまいます。ですから何枚持てるかよりも、むしろ維持証拠金を除いたあとの証拠金残高がいくら残っているのかを考えながら、持つべきポジションの量は決定されるべきなのです。100万円の資金では3枚は明らかに持ち過ぎなのです。

もうひとつの原因は、ストップ注文の置くべきレベルでしょう。これも証拠金残高を勘案してのことになりますが、そもそも40万円の損失しか許されない状態で3枚の損切りを1円外側に置くということは、1発撃沈の発想です。3枚持つのも間違っていますが、3枚で勝負するならばストップアウトはもっと近くで行わないといけないということになります。何度も勝負を試みる前提であるならば、10万円が4回分くらい出来る範囲のストップ注文ということになり、せいぜいで30銭外側に置くことしか許されないことになります。

これらすべてのことを勘案して、もう一度、戦略を練り直してみましょう。もしこれと同じ取引を10倍の1000万円の軍資金のもとで行った場合には、1円動いても元手全体の3%にしか過ぎませんから、反対方向へ行った場合にあと1円耐えてみても全体額の1割にも満たない損失で抑えることができますが、100万円の場合には30万円もアゲインストにいくと、マージンコールとなる水準が近づいてしまい、自分が思い描いた取り引きがスムーズに行われなくなる可能性が出てきますし、窮屈なものにならざるをえません。

足りなくなったら資金を継ぎ足して耐えていくという方法もありますが、それではそもそも資金効率を考えて行動していたことに矛盾してきます。大切な資金は有限なのです。

ではこの場合どういう行動を取るべきだったのか。最初に始めるポジションの枚数も間違い、ストップ注文の置き所も間違いだという以上、なにをどうするべきなのでしょう。この例では、最初に始めるポジションは1枚がベストであり、調子のよさそうなときに2枚使うというのがいいでしょう。ストップ注文の置き所としては、1枚持っているときなら1円外側まで見ても構いませんが、2枚となるとポジションが倍になった分、当然のごとくストップ注文は50銭以内にすべきでしょう。勝負というものはその字のごとく勝つか負けるかわかりません。一回の勝負では、負けても10万円、すなわち元手資金の1割程度に抑えるように、ポジショニングは工夫されるべきなのです。

具体例として、2枚のポジションを持ったまま、反対に持っていかれたことを考えてみましょう。110.00で2枚売り込んだものを、ストップ注文はとりあえず111.00の買い戻しで2枚をいれています。 ストップ注文の位置として想定してある1円はあくまでも最悪の事態を想定した最低ラインであり、そこへ到達する前に自分が売ってしまった2枚のうち、まずは半分の1枚の処理を考えましょう。

時間が経って事後的にみると自分が考えていた相場の方向は正しかったということになっても、現実に目の前で起こっている相場の中でアゲインストになっている以上、相場に入る場所とタイミングが違っていたのだと考える方が無難です。眼前の苦痛から開放されるためにも、より事態が悪化しないためにもポジションを減らし、残りの1枚だけで様子を見ます。仮に思っていた方向へ相場が反転してくれば、残りの半分になったポジションだけでも十分に利益を出せます。

もちろん、当初の2枚のままのときよりも利益の絶対額は低くなりますが、ありえたかもしれない損失の拡大を回避したコストだと思って割り切りましょう。安全運転をしようと思えば、お金もかかりますし、遠回りして時間もかかるものなのです。相場の入り方が間違ったのだと得心して、次回また相場に入るための費用と考えるようにしましょう。一度撤退して、また相場に入るところをじっくり探せばいいのです。相場は逃げないのですから。

ではストップ注文を1円外側に置きながらも、1枚目を30銭反対に行ったところで、2枚目を60銭で止めた場合の損益はどうなるでしょう。

1枚目: (110.00 − 110.30)×10万ドル = −30,000円
2枚目: (110.00 − 110.60)×10万ドル = −60,000円
合計損失額 =−90,000円

この後、当初置いてあったストップ注文のレベルまでドルは上昇した後、どうも上には抜けそうにありません。つまり、111円台を手前にしながらも上方突破できそうになく見えたとします。そこから反落してくると読んで、再度111円で2枚を売ったとしましょう。そしてまた始めに売り込んだレベルである110.00に戻ってきたとします。

(111.00 − 110.00)×20万ドル = +200,000円

先ほどの損失額と通算してみますと、110,000円の利益が残ることになります。

マーケット自体は、どんなに自分の考えている方向が正しくて、それを論理的に解説できたとしても、その方向へすぐに思い通りに行ってくれるわけではありません。常に上下にぶれながら動くものですから、ファンダメンタルに基づく納得のいく正しいトレンドだと思って入っても、反対に動いてしまうことは避けられません。その時に元手の資金を少しでも多く残すことを考えて、臨機応援に対処するように知恵を絞る必要があります。自分が最初に描いた相場観にとらわれずに、損切り注文は機械的に置くように心がけたいものです。

ストップ注文の置き所についてですが、あくまで損失の確定ですので近くに置くにこしたことはありません。しかしだからといって損失を恐れるがゆえにストップアウトのレベルが近すぎてロスだけを連発するような方法は感心できません。これでは少しでも多くお金を残すのだという思想に反しますし、多少のリスクも許容できないのならば、相場に参加する意味がありません。

たとえば外国為替取引では3−5ポイントのスプレッドで価格提示がなされているところが多いようですが、相場のもつ自然なさざなみも考慮に入れれば、外国為替取引をやる上では30銭以上はなれたところにストップ注文を置かなければリスクを取った甲斐がありません。ケチって最初から10銭だけアゲインストのところにストップ注文を置くというのはあまり意味をもちません。

この判断としてテクニカルなものを活用しましょう。客観的なものなので誰でも使用しています。極まったギリギリのところで、しかもここを越えてしまえば異なる世界に突入する、というようなところにしっかりとストップ注文を並べるのが、王道です。王道であるがゆえに多くの人がそうしますので、そこを超えてくるとまさしくアナザーワールドへ相場の水準は遷移し、新しいレンジ内でのマーケットが始まるのです。

また幅を取って相場に臨みたい場合には、戦略的なポジショニングをしてみるということもお勧めします。まず110円で10万ドル売ります。1円反対に動くと10万円の評価損ですが、111円でもう一度だけ売り増します。いわゆるナンピンです。 基本的にナンピンはお勧めできませんが、最初から自分のシナリオの中で構築されたナンピンであれば問題はないと考えています。そもそも相場において値段の端っこを捉えることは至難の業ですし、仮にトレンドに乗って売られている相場に売りで臨んでも、すぐにワークするとはかぎりません。そこで最初から、ある程度のアゲインストを想定して相場を張ることにするのです。いうまでもなく、そうした場合、最初は小さく、この例の場合ですと1枚だけになりますし、戦略的だからといってストップ注文を置かないでもいいというわけではありません。ポジションを終了する位置をあらかじめ設定して、最大損失額も予算に組み込むことが出来てはじめて相場に入ります。しかしこの方法は、ある程度の評価損を耐える覚悟があるため、成功した場合には意外なほど大きな利益につながることもあります。

では、お勧めできないナンピンとはどういうことを言うのでしょう。ポジションを作ったものの、反対に行ったからといって場当たり的に同じ方向のポジションを増やすことです。上記の戦略的ナンピンとの大きな違いは、ポジションが増える理由がアゲインストになったからという消極的なものであり、もともとシナリオで計算された位置で計画的になされたかどうかという点です。単にナンピンしても、あまりいい結果が得られない場合が多いように思います。ナンピンの是非については後ほど述べることにします。

ストップ注文で安全運転が図れるといっても、損切りして傷ついている状態では立て続けにもう一度大きな勝負を試みるのはお勧めできません。一度失敗しているのですから、冷静になって自分の見落としていた相場の動きをチェックすることが必要ですし、勝負するにしても次回は小さめに入ってみる方が無難だと思います。一度損失を出したあとは、ポジションを小さくするか、損切りラインを近づけるなどして、自身のダメージを最小限度にすることに努めなければいけません。

元手の金額が大きくても同じです。100万円に比べて元手が1千万円であった場合は、余裕資金が多い分、耐えることができるということでより有利に働くことはあります。しかしそこに胡坐をかいていると必ず落とし穴が待っています。100万円を元手に1千万円に増やしても決してやり方を変えるべきではありません。後があると思うと甘くなってしまうのが人間です。大切なことは、常にお金を少しでも残そうという意識と、無尽蔵に資金はないということを認識することでしょう。