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第6章 リスクのとり方と考え方
やってはいけないこと
外国為替の証拠金取引は、レバレッジを利かせた派生商品デリバティブです。現物株を買うという投資の手法とは根本的に違います。資金運用のスタイルは、突き詰めればアクティブ運用かパッシブ運用の2種類に分けられます。最近よく耳にする言葉です。
日本で投資と言われているほとんどはパッシブタイプの運用のようです。たとえば「株を買う」、「不動産を買う」、「投資信託を買う」といった行為は、買ってしまえば後は上がることをひたすら期待して待つしかありません。ここでは時間軸を自分でマネジメントすることはできません。運よく翌日に倍になることもありますし、10年経っても買い値にすら戻らないこともあります。またパッシブの良さとしては、管理コストを除けば買った金額以上の損が出ることもないですし、下手に損切りを実行して損失額を固定したりしない分だけ値上がりした場合の利益が大きくなることが多いのです。
成熟期を迎えている国々においては、経済自体が安定という名のもとの低成長を続けているので、大きな利益を短期間で狙える投資先は多くはありません。ですから海外で金利の高い債券を購入したり、新興国の株式に投資して、リスクとリターンの高いものへお金が流れるということが起こります。もちろんこのような投資もポートフォリオを構成する上で、ヘッジという観点からも重要ですし、いろいろな商品へ分散投資をするという手法も一般的なものです。しかしリスクを分散したところで、パッシブ運用のみでやっていることに変わりはありません。
いつ出るかわからないホームランを期待するよりも、毎日、毎月の打率で頑張っていこうという発想の元に運営されているのがアクティブ運用です。打率で頑張る以上、定期的に利益を出さねばなりません。評価損が出たらそのポジションは無用の長物となり、何も産まないポジションはすぐに損切って出直しを図ります。したがってポジションのサイズは大きなものとなり、ポジションを抱えている時間もきわめて短いものとなります。取引に入る回数も多くなりますし、基本的にポジションを持っていない時間のほうが長いのではないかとさえ思えてきます。
欧米で人気のあるヘッジファンドが好例です。彼らは短期の成績を求めます。バイ・アンド・ホールドなどという気長な手法はとりません。時間だけが勝負なのです。月の営業日数が多いということは彼らにとってチャンスが増える分、ハッピーなことなのです。
アクティブ運用は投機的ではあります。しかし複数人からなるチームでやっている限り、成績は標準化され、利回りと呼べるようなものになります。また定期的に診断を下すことも容易となり、顧客にとってはその投資先がどうなっているかという、どういう手法かという中身はどうあれ、過去の実績値だけをみれば投資判断がくだせるのです。多くの投機が集まって、逆にひとつの投資を形成しているといえます。
ではあなたが行おうとしている外国為替の証拠金取引においては、どちらのスタイルに準ずるべきでしょうか? レバレッジが効いていて損切りもせずに放置しておくことが許さず、元手の資金は限られている、できればすぐにでも損益の答えが欲しい、などなどその特性を探ってみますと、アクティブ運用で取り組まなくてはいけないことは想像がつくと思います。
パッシブ運用の発想を証拠金取引に応用すると、リスクとリターンが見合わない危険性があります。また6−3の例@のように収益機会を見逃すというだけでなく、値動きの綾の中で簡単に撃沈させられてしまうかもしれないのです。1回、1回の取引でリスクに対して敏感にならねばならないこの証拠金取引は、まさにアクティブ運用のスタイルを踏襲することを意味します。
次になぜナンピンをお勧めしないのか、ここで現物株などではよく行われるナンピン買いを例にとってお話します。
(チャート 例1)
適当な例がネットで見つからないため、新たに作成。
110.00で売った後、相場は上がってしまい、111.00でさらに売りをします。 こうしたナンピン行動の結果、ポジションは増えることになります。たしかに売りに平均コストは110.50となり、110.00のままで持っているより一見リスクが薄まったように思えます。しかしポジションが2倍になっているわけですから、リスクも2倍になっています。110円のシコリを111円になってすぐに損切って買い戻していれば、損失は10万円で固まりますが、それ以上損失を出すことはありません。
では111円で損切り覚悟で買い戻せないのはどうしてでしょう。相場はここまで1円を歩んで上がってきたのだから、また下に下がることもあるのではないか、こう考えてしまうのです。これは上記のパッシブの発想です。1年待てばまた元に戻るかもしれないのは事実です。しかし戻るまでの間に耐えなければいけない時間が無駄なのです。そもそもその時間がどのくらいなのかを見込むこともできません。
しかし証拠金取引の場合には追加でお金を払うことを要求されますので、元のレベルに戻るまで何もせずにただ待っているわけにはいかないのです。今、目の前で1円もアゲインストに行った後で、自分がナンピンを仕掛けたその途端に相場が反転し、いきなり平均コストまで戻ってしまうと考えるのは、不自然ですし、合理的ではありません。冷静に考えれば、残ったものは膨れ上がったポジションと、切りきれていないために発生する評価損と、さらにここからアゲインストに持っていかれるかもしれないという恐怖だけかもしれないのです。
もしここからさらに1円もアゲインストに行って評価損が30万円にまで膨らめば、3枚目のポジションなど作れないどころか、さらに1円上になれば何も出来ずにマージンコールで退場ということになります。往々にしてナンピンしても、そのポジションの大きさの割には実入りが少なく、リスクとリターンのバランスを考えてみた場合、やってはいけない行動の最たるものであったという事を後になって認識することなることが多々あります。 原則ナンピンは禁止、ポジションがアゲンストに行ってしまったら損切りするのみ、とだけ考えて証拠金取引に向かうようにしましょう。
もちろんナンピンの誘惑に駆られることは誰だってあります。そんなときは、そもそもナンピンかもしれない事態に陥った時点で、当初の自分のアイデアとポジションが反対に行ってしまっているということを謙虚に反省して、損切ることで出直しを図るべきなのです。
(チャート2)
反転して戻って円高にならず、そのまま116円台に行ったチャートを作成。
アゲインストに行ったらナンピンできない、すなわちポジションを増やすようなことは出来ないのであるならば、ではどのようなときにポジションを増やせばよいのでしょう。
基本的にはポジションを増やすということはリスクがその分だけ増大しますから、よほどのシチュエーションでないとポジションを膨らませることは意味のないことです。評価損を抱えた状態でナンピンという形でポジションを増やすので大変危険なことだという事は述べてきましたが、これとは反対に自分の持っているポジションがフェーバーになっている時はポジションをさらに増やして、さらに大きく利益を狙うようにするべきです。
しかしここで利食いたくなるのも人の心理です。かなりの誘惑に駆られます。ナンピンとは違いますが、利食いたい衝動を抑えて、みすみす利食えるものを利食わずに、さらに攻め続けるにもなかなか強い勇気がいります。しかしぜひとも一度挑戦してもらいたいものです。相場から大きくお金を得るためには、この機を利用しない手はありません。もちろん、失敗することもあるでしょう。でもナンピンなどに比べるとその失敗による損失額は実に微々たるものですし、逆に上手くことが運んだときの儲けと快感は大きなものとなります。証拠金取引では評価益が出ている限り、自分の証拠金残高が増えていくのでポジションをドンドン膨らませるには絶好なのです。しかしそういう上手く行っている時であっても、いつ潮の流れが変わるかわからないので、ストップ注文だけは忘れないようにしましょう。
最後に、ここまで何度も言ってきましたが、ストップ注文をまったく置かずに取引をするというのはお勧めできません。たとえ今見える相場がナギの状態であっても、一寸先には何が起こるかわかりません。突然、自分の持っている方向とは反対に動く可能性のある大きなニュースが飛び込んでくることもあり得ます。そもそもニュースが伝わる前に相場はとんでもないほうへ走り出してしまうことも多々あります。
それまで相場を支配していた前提が覆されてしまうのです。自信を持ってマーケットに入った場合であっても、自分の能力の限界を超えたところで、何が起きているかはわからないものなのです。
またそのような突発事項が起こらなくても、24時間、ご飯も食べず、夜中も起き続けて、相場を見ているわけにもいきません。ストップを置かずに適宜見ながら行っている方でも、自分が相場を見ることができなくなりそうな場合には、遠いところでもいいのでストップ注文を必ず置いておくように習慣づけましょう。もちろんストップが利かないほど値が飛んでしまうこともありますし、ストップがついた後に相場自体が戻ってくることもありますが、それも相場です。基本には忠実に、日々の小動きのなかでもストップの置き所を常に考える癖をつけましょう。
ストップまでのバッファーを50ポイント(ドル円でいえば50銭)取っているのに、利食いは20ポイントだけでおしまい、というような相場の張り方をもよくみられる事ですが、これもあまり感心できません。「200万円稼いでやるから、なくなってもいい500万円を出資してよ」と頼んだところで、だれにも相手にされないでしょう。取ろうとしているリスクが、目指している収益と見合わないからです。
もちろん、実際の相場の値動きの結果として、20ポイントしか利食えなかったということはあるでしょう。しかし、ポジションを作る前の企画の段階からそうであったならば、そのような投資手法は間違いだと言わねばなりません。利益の目標としては、ストップで損失が出るであろう金額の、少なくとも2倍は見込まないといけません。そうでないと1勝1敗でも、お金を残せないことになり、相場に参加する意味がなくなります。
ストップ注文を置くのは自分を守るためだからいいのですが、守ることばかりに気を取られて、肝心の利益を出すほうがおろそかになってはいけません。ストップの倍くらいの収益が見込まれないようならば、その時には入るべきではないということになります。
以上を要約しますと、
(やってはいけないことの鉄則)
- ナンピンをする
- ストップのレベルを決めずに相場に入る
- ストップ注文を置かない
- リスクとリターンのバランスを考えない