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第7章 他の市場参加者

為替レート

円相場と株式相場の相関性を議論するのは難しい。説明を難しくしている最たるものは、「円安は本邦輸出企業にとってメリットである。よって円安は株価上昇要因である」とか「円高は輸出競争力を低下させる。よって円高は株式市場にとってマイナス材料」といった円高恐怖症である。たしかに日本は資源の乏しい国であり、必然的に加工貿易を業(なりわい)としているので、付加価値生産に頼っている面が大きい。

輸出サイドだけを考えると、円相場が100円であるよりも120円であるほうが、受け取る外貨を円転した場合に手取りの円価が多くなる。それが会社の利益を潤す結果になるというのも事実である。他の外部要因に変化がなければ、円安は輸出株にとっての買い材料となりうるのもうなずける。

それでは輸入サイドはどうか? 原材料のまったくない日本ではそのほとんどすべてを海外に依存している。円安の進行は輸入筋にとっては打撃になるにもかかわらず、「輸入株は円安だから売りたたかねば」という声はあまり聞こえてこない。また事実、輸入株が円安によって暴落したということもかつてない。

株式市場全体にとっては円相場の動向はニュートラルに作用してしかるべきであり、円高恐怖症だけをことさら取り上げて、市場に参加するのはいかがなものかと思う。1995年には円相場は80円台を割り込んでくる局面もあったが、円高で大型倒産したという話しはまったくなかった。今では円相場が120円ならば日本社会はうれしいことになっているが、ちょっと前までは120円なんて見たくもないレベルであったはずだ。

バブルの崩壊後も日経平均株価は上下動を繰り返してきたが、株価が回復している局面では円高になっているのも皮肉なことに事実なのである。外国人が日本の株式を買うために自国通貨を売って円を購入する必要があるからである。1993年からの円高相場では株価は大いに回復したし、近いところでは2000年直前のITバブルといわれる時期も円高が進行した。

逆に、1997年前後の金融不安による株安期や2002年の日経平均1万円割れなどのときは、すべて異常な円安の時期であった。こうした事実を拾ってみるだけでも、株価維持や企業業績のためといって日本の財務省が一生懸命に円売り介入をしているというは滑稽感を拭い去れない。

では、どうしてそういう「円高イコール株安」という印象を市場参加者が持ってしまったかを考えてみよう。円相場の裏側にはドルの相場があり、ドルの値段は本国であるアメリカの株式市場の動向を意識しないでは語れない。アメリカの株式市場が大幅に下落しているときは、当然のごとくドル売り一色となりやすい。ニュースなどで海外市場に触れるときには、海外の株式の下落とともにドルの下落も伝えられることになる。

ドルの下落はすなわち円高である。同時進行の日経先物も米国株にツラレて下落しているはずで、それが翌朝の日本の株式市場の寄り付き段階で株価の下落圧力を加え、実際に株価は下落する。こうしたことが重なって、「円高イコール株安」という宗教みたいなものが成立したのではなかろうか。

もちろん日経平均株価の構成を考えれば、値がさ株のなかには輸出企業のものが多いので、円相場に左右されやすいという一面を持っているのは否めない。しかし参加者の多くが円高恐怖症をベースにそれを信じて相場に臨んでいる以上、円相場の動きは見逃せないファクターとならざるをえない。円相場で動きが見えて、日経先物で反対のポジションを持っていたら、一度は手仕舞っておくに限る。